怪しい当選

20歳頃の私は兎に角、一人暮らしをしよう!しなくては!そう心から思っていた。

まず初期費用を貯める。他にどういう事が必要か色々調べ始め生活のリアルを知っていく。

周りの友達はオシャレにお金をかけドンドン可愛くかつ大人っぽく変化していく。でも私はオシャレにお金は使えない。自分の暮らしをまず確保しなくてはならない現実がある。友達への羨ましさ生まれた環境への悲しさと苛立ち、それらを抱え自分でやっていくしかないという気持ちを奮い立たせていた。



ふとメールを確認すると飛び上がるほど嬉しいメールが届いていた。

『当選』ネックレスが当選しました!

「何か応募したっけ?」と正直思った。しかし宝石店のネックレスだ。こんなチャンスはない!喜びが勝った。

 

当選した品は送られてくるのではなく、お店に受け取りに行かなければならなかった。しかも事前に日時の予約を入れなければならない。駄菓子屋で『当たり』が出て引き換えに行くのとは訳が違う。そこには何かがあるから。だけど必死な私は即予約を入れた。

 

当日駅前まで迎えにきてくれると言うので驚いた。「なんと親切なことでしょう」世間知らずな私は意気揚々と待ち合わせ場所に行った。到着した旨をメッセージで伝えるとすぐに黒いロングコートを着た「夜のお仕事の方ですか?」という若い男性が現れた。「とっても苦手だ。一緒に歩きたくない。」そう思い一瞬怯んだけれどネックレスを頂かねばとお店へ向かった。

 

お店に入ると小さなテーブルと椅子が並んでおり、外が見える席に案内された。初めての宝石店、大人気分でウキウキとドキドキが混在していた。少しするとプレゼントのネックレスを持ってさっきの男性が現れた。「本当にもらえる〜」と嬉しくてたまらなかった。もう苦手なこの男の事なんてどうでもいい。ありがたい!ただありがたい!!感謝の気持ちでいっぱいになった。

心からお礼を伝え帰ろうとしたその時、折角だからと素敵な宝石の指輪を見せてくれた💍

指輪なんて私には似合わない。恥ずかしい。そう思って拒否していたはずなのに、上手に乗せられて気づけば指輪をつけていた。

 

うわぁ〜素敵・:*+.\*1/.:+

 

女性達が虜になる気持ちが少し分かった。指輪をつけるだけで女性らしくエレガントな気分になるのだ!私の女性らしからぬゴツゴツした手にも馴染んでいるように思わせるお店の雰囲気と男の口の上手さがそこにはあった。

 

そんな夢見心地な私に男が紙を差し出しながら話し出した。「月◯万円で買えるんだよ!こんな高価な物をこんな価格で買えるよ!一生物だよ」

 

シラける。ようやく本性出しよったな。今の私ならいくらなんでもここで気づくだろう。しかし、当時の私は実に可愛くおバカだ。

 

そうなんだ〜!思ったより手に入りやすいもんなんだぁ☆買えそうヽ(´▽`)/うっとりしていた。

 

だがその価格は一人暮らしの家賃代予算と変わらなかった。そこで我に返った!一人暮らしをするんだ!そんなお金はない!

 

即刻、素直にそれを話した。すると男は「一人暮らしを数カ月後に延ばせばこの指輪が手に入って一人暮らしもできるよ」と言ってきた。「なるほど、そういう考えもあるか〜」なんて思えるような一人暮らしへの思いではなかった。私は切実なのだ。

 

「一人暮らしをしてみた〜い☆憧れる〜」なんて甘っちょろいものではなく、家を出る!自分でやっていく!そう覚悟を決めている。そしてできるだけ早く家を出る。数カ月後とかそんな甘っちょろいことは言ってられない。諦めるなら目の前の美しい指輪でしかないのだ。

 

どう足掻こうが無理なものは無理なのだ。こういう思いはそれまでにもしてきている。ならばどうするかなのだ。

 

『ネックレスをいただいてこの指輪を目標にやっていきます!』そう宣言した。そしてネックレスを頂戴しお店を後にした。

 

自分の志しと頂戴したネックレスを胸に私はきた時以上に意気揚々としていた。

一人暮らしを実現させてもオシャレにお金はなかなかかけられなかった。しかしこのネックレスが友達と会う時の自信となった。もちろん指輪のことはすっかり忘れていた。元々興味がないのだ。


 

今思うとあれは『怪しい当選』だ。詐欺まがい?デート商法というやつ?そんな類なのかなと思う。もしそうだったのなら私は勝った!切実な思い、目的をしっかり持っていた事で私は少ししか惑わされる事はなかった!

 

それに、その事で『怪しい当選』が普通に『ありがたい当選』になったのだ。そしてその当選品が私の人と会う時の自信となってくれていたのだ。なんと素敵な事でしょう。

 

しかし店舗であまーい囁きと美しい指輪というのは凄い魔法だと思う。興味がなくてもその気になってしまうのだからおっそろしい。そこに負けなかったのは心の強さ!切実な思いがあったからかなと思う。そう考えると、生まれた環境があまり良くなかった事もいい方向に考えられる気がする。

 

結果論ではあるが、人生それでいいのだ(^-^)b

 

*1: °ω°